昭和の紅茶キノコブーム…その始まりと終わり
紅茶キノコ… その名前と言い、見た目と言い、
けっこうな破壊力を持っていましたね。
最近になり、名前を変えて、
しかし、あの姿はそのままで
復活したようでございます。
そういえば、あれっていつの間にか見なくなったよなあ。
なんで?
気になったので色々調べてみました。
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そもそも、紅茶キノコって?
これです。
By Romarin – Own work, Public Domain, Link
最近は、Kombuchaと呼ばれており、
あのミランダ・カーも愛用しているということで、
テレビでも取り上げられているらしいですね。
しかし。
この白っぽい丸いやつは
キノコでもなく、ましてやコンブでもありません。
なんで「コンブチャ」になっちゃってんですかね?
こいつの正体は後で説明するとして、
まずは最初に日本に上陸した
44年前を振り返ってみることにしましょう。
昭和の紅茶キノコブーム
ブームのきっかけは、こちらの「紅茶キノコ健康法」という本が出たことだと言われています。
実は、この本を読んだ、という人に私はお目にかかったことは無いのですが、
恐らく、この本が新聞やテレビなどで相当取り上げられたんでしょうね。
あなたが50代以上であれば、ご記憶だと思います。
紅茶キノコ、うちにあったよなー、という人でなくても、
友達の友達あたりまでたどれば絶対にあった、と思うぐらい
遭遇率は高かったですねえ。
私も「一体どんなものなんだろう?」
「キノコって、ほんもののキノコ? なんか動いてるように見えるけど、生きてるの?」
と恐いもの見たさ、満々でした。
「そんなに見たいならうちにおいでよー。見せてあげるよ?」
と親切なクラスメートに誘われ、
わざわざその子のご近所のおばちゃんのところまで
見に行っちゃいましたよ。
「ちょっとあげようか?」
と言われましたが、その不気味さに負けて
とても飲む勇気は出ませんでした。
飲んでみた、なんて母に言ったら、絶対におこられる…
これはキノコなの? 生きてるの?
「キノコじゃないらしいんだけどね。これは食べないの。飲むだけ」
おばちゃんに聞いたところで明解な回答が出てくるはずもなく、
でも、ちょっとは期待してたところもあったので、
なんだかガックリしながら家路についた記憶があります。
作り方も聞いてみたのですが、
当時は、その「キノコみたいなもの」をご近所から分けてもらって
紅茶に入れてつけておく、っていうだけでした。
それもまた釈然としない… なんかそのキノコみたいなやつにだまされてるんじゃないか?
地球が乗っ取られたらどうしよう、ぐらいに不安になっちゃいましたね。
大流行した二つの要因
まあ、そんな感じで「どこの家にもある」状態になった紅茶キノコ。
これが液体だけで、「飲むと健康にいいらしい」というものだったとしたら
あれほどは広がらなかったのではないでしょうか。
自分なりに考えてみた要因は以下の二つです。
得体の知れないものへの期待感
とにかく、あのブニョブニョしたキノコ状のものの正体がわからない。
でも、健康にいいらしい。
味は飲めないほどじゃないけど、お世辞にもおいしいとはいえない。
適度にまずい、というのがかえって健康によさそうな感じがするし。
とにかく、どんなものか、まず手に入れてみよう、という気になりますね。
しかも、「培養」するものなので、
飲み切る前に紅茶を足していくわけですから、
常にお茶の間に存在する、という
何か実効支配的なパワーまであったので
「どこのうちにもある」
という状態になったのではないでしょうか?
おすそ分けで作るという伝播力
当時は今のようにキノコの部分は販売されていなかったので
ご近所からもらってきたんですね。
「うちも紅茶キノコはじめたんですよー」
「お宅もどうですか? よかったら、おすそ分けしますよ」
と言われたら、
「そうですか? じゃ、せっかくですので」
と、もらってきてしまいますw
で、しばらく食卓に置いておくことに。
その後、他のご近所の奥さんが訪ねてくると
「あら、紅茶キノコですか?」 「よかったらどうぞー」
となって、どんどん広まっていく…
まあ、これが大流行の一番の原因でしょうねえ。
しかし、この「おすそ分け」が
同時に、「ブーム終焉」の大きな原因となるわけですが…
キノコの謎を解いてくれたのは厚生省だった
何かが大流行すると○○詐欺が出てくるのは世の常です。
紅茶キノコに関しても、
ガンが治るだの、
これで商売したら大金持ちになるだの、
いろんなものが湧いて出てきたようで。
ついに国会でも取り上げられることになってしまいました。
さて、この記録、残っているんだろうか?
いや、まさかねえ、、、と思いつつダメ元で検索してみたら
で、出るんだ、こういう検索でも(^_^;
40年以上前です。これはすごい。
公明党大橋議員の質問はこれでした。
「昨年十二月ごろから話題になっております、いわゆるベストセラーになった『紅茶キノコ健康法』という本があるわけでございますが、これがガンに効くというような、そうした効能のうわさまでそれにつきまして、大変なブームを巻き起こしているわけでございます。」
「きょうここに持ってまいりましたのは、紅茶キノコの実際なんですけれども、」
え。国会議事堂に持ってきちゃったんですね、紅茶キノコ。
「まだ科学的な解明が十分に行われていないこのものが余りにも鋭い広がり方をしている。それにある商売をやっている方が目をつけて悪質な金もうけを始めた。便乗商法も急速にはびこっていっているというようなことなんですけれども、これについて厚生省が今日までどのような考えでこれを見ているか、また今後どうする考えか、聞かしていただきたいと思います。」
いよいよ、厚生省の見解です。答弁者は、厚生省の環境衛生局長さんです。
「一般に紅茶キノコと言われているものは、砂糖入りの紅茶――これは必ずしも紅茶でなくてもよいようでございますが、緑茶あるいはコーヒー等でも結構でございますが、それに相当な砂糖を入れまして、ある種の細菌及び酵母をこの中で急速な増殖をさせまして、その結果酸味を帯びた発酵液とゼリー状の凝塊を形成させたものを通称紅茶キノコと言っておるようでございます。」
えー、紅茶じゃなくてもいいんだー。
そして、「キノコ」の部分は
「酸味を帯びた発酵液とゼリー状の凝塊」 だそうで。
よかった、「生き物」じゃなさそうだ。
「この凝塊、菌塊につきまして、一般には摂食されていないようでございますが、外国では、そのままあるいはこれをシロップづけにいたしまして、またわが国におきましては、これを刺身、酢の物、砂糖づけ、そういった形で食用に供している例もあるようでございます。」
おお、これを食べてもいいのね!
「ただいまある種の細菌及び酵母と申し上げたわけでございますが、いままでわれわれがつかんでおるところを申し上げますと、酵母といたしましてはサッカロミセスというある種の酵母でございます。そのほかにキャンディーダ等を使っている例もあるようでございます。それと細菌の方でございますが、これはアセトバクターキシリナムという菌でございますが、この両方をまぜ合わせてこの本体になっておるようでございます。
この砂糖を酵母サッカロミセスが分解いたしましてアルコールにいたしまして、このアルコール分をさらにアセトバクターキシリナムが酢酸に変える、こういうメカニズムのようでございます。」
うわー、これ、市川実日子さんに読んでもらおうよ!!
「主成分は、主といたしまして酢酸でございまして、次いで少量のグルコン酸その他の有機酸を含んでいる。さようなところまでわれわれのところで現在調べております。」
主として酢酸…
「お酢」
でしたか。
「なぜこんなにぐんぐん広がっていくか、それについてはどうお考えになっていますか。」
という質問に対しては、
「たとえば、紅茶のかわりに牛乳を使ったものが、これがヨーグルトというようなものでもあるわけでございまして、そういった一種の類似のものだと考えておるわけでございまして、一般的にはこれが健康食品とかそういった概念でかような異常な流行を示したんではなかろうかと推測いたしております。」
そうか、ヨーグルトでもいいんだ…
で、危険性についてですが、
「現時点において厚生省がいろいろと検査しました結果、正常な状態で培養される限り、これが有害であるということは何も出ておりません。」
まあ、だいじょうぶ、と。でも、雑菌混入については釘を刺しています。
「やはり取り扱いが必ずしも十分でございませんと、先ほど申し上げましたサッカロミセスとかあるいはアセトバクターキシリナム以外の菌がこの中に入りまして、それがもし病原菌であるとすれば、ある種のそういった健康被害につながる可能性もあると思っております。
普通の場合、これは非常に酸性の強い液体をつくるものでございますので、普通のこういった強い酸性の液体の中では、他のいわゆる病原菌といわれるものは非常に育ちにくいところでございますが、培養方法が十分でないとそういった可能性もあるということを申し上げておきます。」
ビンを煮沸消毒して、雑菌が入らないようにちゃんと密閉しておく、っていうことでしょうか。
ブームの終焉
国会でのやりとりがどの程度広まったのかはわかりませんが、
遅かれ早かれ、人々の間に知られていったようで。
そして、ブームを起こした要因が二つとも
見事に消え去ることになりました。
得たいの知れないもの→ タダのお酢だった
おすそ分けで作る→ 雑菌のおすそ分けになったらタイヘン!
うちの紅茶キノコのせいで、お隣がおなかこわした、なんてことになるなんて
日本人が最も恐れることですね。
おすそ分けで作るものだったからこそ、急速に広まり、
おすそ分けで配るものだったからこそ、雑菌広める元凶になりたくない!ってなって
ブームはあっという間に消え去っていったのでした。
たかが紅茶キノコ。
されど紅茶キノコ。
いろいろ考えさせられた物体でしたね〜。